6月9日は、東山動植物園で飼育されていたサバンナゾウ (Loxodonta africana)のチー (♂, 1975~2009)の命日でした。
彼は私にとって特別な存在です。生まれて初めて見たサバンナゾウのオスが彼で、立派な姿と、当時おこなわれていたエンリッチメントで生き生きとした彼の行動を通して、
ゾウと動物園についてもっと知りたいと思うきっかけをつくってくれました。
今日は、そんな彼についてご紹介いたします。
チーのプロフィール・エピソード
愛称:チー
種:サバンナゾウ
生年月日:1975年(推定)
出生地:南アフリカ共和国(野生)
来園日:1983年3月14日(和歌山県のアドベンチャーワールドより来園)
チーは1975年(推定)生まれのサバンナゾウのオスで、アドベンチャーワールドを経て、1983年に東山にやってきました。
現在アドベンチャーワールドで暮らしている、エレ、リラ、ジンタ (♀, 1972~)たちとも過ごしていた時期がありました。
特徴としては、短めの牙と大きな体。体高は約3m、体重は推定5トンを超えていました。
その姿には、どこか近寄りがたい雰囲気を感じていたことを今でも覚えています。
オスゾウの雄大さと迫力を私に教えてくれました。
性格は悪戯好きで、とても賢い個体でした。毎日柵越しでおこなわれていた健康管理のためのトレーニングでは、飼育員さんを試そうと、敢えて指示とは違う動きをとってみたりすることもあったそうです。
放飼場で餌を探して食べようとするチー。右下の赤い丸の部分は、餌が仕込まれているフィーダー。
丸太の中に穴をあけ、そこに落花生を入れておくと、転がして落として食べたりしていました。
また、獣舎の外壁や砂場に掘った穴の中にも隠す、時間がかかる枝葉を与える、短冊切りにした消防ホースの中に隠すなど、餌を探索して行動する野生の彼らの暮らしに近づけていました!
彼が飽きないよう、20種以上のレパートリーから数種類を選んでおこなっていたとか。
当時は午後はケニー(♀, 1973~2020)が出るため、午後以降は室内で過ごすことが多かった彼。
そこでも壁や上部、送風口のダクトなどさまざまな場所に餌が仕掛けられ、室内での暮らしも快適になるようにしていました。
これらについては、市民ZOOネットワークという動物園を応援する市民団体が開催する「エンリッチメント大賞」にて優れた取り組みに与えられる敢闘賞を受賞しました!
興味を持たれた方、詳しく知りたい方は、こちらをクリックしてご覧ください。
当時はこのような取り組みをしている園はまだ少なく、生き生きとした彼の姿を通して、
動物園でのこのような取り組みにも興味をもつようになりました。
また、彼は右後足(赤丸)の部分が少し曲がっているのが特徴でした。
曰く、幼い時にモート(堀)に落ち、その時に曲がってしまったようです。そのため、肢に負担がかかり過ぎないよう、飼育員さんによる日々の足や蹄のケアは欠かせませんでした。
とても立派で、多くの方にゾウの迫力と素晴らしさを伝えてくれた彼ですが、2009年6月9日に、起立不能になり、心不全のため亡くなってしまいました。
その時の年齢は推定34歳。まだ若かったのと、東山に行くと毎回彼の姿を見ていた私は、とても悲しみました。
チー、第2の象生へ
動物園では、動物たちが亡くなると、まず、獣医さんによる死因解剖がおこなわれます。
場合によっては外部の機関に検査を依頼し、詳細な原因を掴むこともあるようです。
そして、その後は博物館などに献体されたり、園内の敷地に埋葬されることが多いです。
いずれの場合でも、彼らが生きていた記録を残すため、そして彼らについてより知っていただくため、骨格標本として保管されることがあります。
チーも、死因解剖後、園内の敷地に埋葬されました。
数年後、骨格は、飼育員さん総出で発掘され、大切に保管されていました。
時が流れて、2017年。開園80周年を記念し、「動物会館」にて彼の骨格標本が展示されることになりました。
それは、彼にとって第2の人生ならぬ「象生」が始まった瞬間でもありました。
動物会館に入ると、そこには立派な骨格がお披露目されていました。
短めですが、立派な牙と巨大な頭部。それを見た時生きていたころの彼の姿が思い出されました。
こちらは、右後足の部分。生前曲がっていた場所が見てとれます。
骨格は、その動物の生きざまを私たちに教えてくれます。
こちらはチーの前足。サバンナゾウは前足の蹄が4つ、後ろ足の蹄が3つといわれていますが、骨格をよく見ると、見えていない部分の指があり、5本指であることが見て取れます。
こうして展示されることで、彼との思い出を懐かしむ以外にも、生きている姿だけではわかりにくい部分を知ることができます。
おわりに チーが遺してくれたもの
今年で13回目の命日を迎えました。チーはこの世を去ってしまいましたが、遺してくれたものが沢山あります。
その1つは、先程紹介した骨格標本となって第2の象生がはじまったこと。
さまざまな意見はあると思いますが、骨からわかるゾウたちのことをたくさん教えてくれます。私のように彼を知る方にとっては思い出を懐かしむ場にもなると思いますし、
この立派な骨格を見て、動物たちをもっと知りたいという方が出てくるかもしれません。
もう一つは、彼がいたことで積み重ねられてきた飼育技術。
例えば、彼が快適に過ごせるように飼育員さんが工夫してきたエンリッチメントの数々は、今や全国各地の動物園にておこなわれるようになりました。
そして園ごとに、個体や環境に合わせて編み出されたものが出てくるなど、ゾウの飼育を大きく変えたといっても良いと思います。
最後は、私たちにこんな立派なゾウがいたことを教えてくれたこと。
動物園は、私たちに、映像や図鑑ではわからない彼らのことや、実際の行動などを知ることのできる場所。
とりわけ立派だった彼のことは、訪れた方の記憶にも残っていることと思います。
私も、彼を通じて、ゾウや動物園についてもっと知りたいと思った中のひとりです。
今回は私にとって特別な巨象、チーのエピソードや遺してくれたものについてご紹介いたしました。
この世界に引き込まれたきっかけをつくってくれた彼のことは、今でも忘れられません。
彼の写真は、我々のHPのサバンナゾウの項目でもご覧いただけます。もしよろしければ、是非ご覧いただけると嬉しいです。
かみやん
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