ブログを見てくださっているみなさま、神山です。
先日アップした多摩のアジアゾウ、アヌーラの記事は多くの方に読んでくださり、ありがとうございます!当ブログで彼のことを知り、会いに行ってくださった方もいらっしゃったので、嬉しいことこの上ありません。
さて、1月14日(日)に、1年と少しぶりに京都市動物園(京都市左京区)を訪れました。
今回、運良くアジアゾウの秋都トンカム(♂)と、冬美トンクン(♀)の繁殖を目指したペアリングがおこなわれている様子を観察することができました!
飼育下のアジアゾウでは、大体10歳頃に性成熟を迎え、メスは約3~4ヶ月おきに発情がやってくるといわれています。(1)
その時期以外はオスとは別にしていることが多く、ペアリングも年に数回ほどと、
遭遇することが出来るのは貴重なことといえます。
今回はペアリング中のトンカムとトンクンの様子を紹介いたします。
目次
1 京都のゾウたち&繁殖に向けてのモニタリング
2 ペアリングの様子
1 京都のゾウたちの概要&繁殖生理のモニタリング
まず、京都のアジアゾウの運動場は以下の写真のようになっています。
右奥の柵で囲われたエリアが、普段トンカムが暮らすオスエリア、手前の大きなプールのある運動場にはメスたちが普段暮らすエリアとなっています。
ペアリング時にはオスエリアにておこなうことが多いのだそうです。
現在京都市動物園には、トンクンとトンカムを含め、5個体が暮らしています。
① 美都(♀,推定1971生)→ 最年長。慎重な性格。サツマイモが好物。
② 春美カムパート(♀,2010年生)→ 小柄な体格で、食欲旺盛。
③ 夏美ブンニュン(♀,2010年生)→ 背が高く、好奇心旺盛で陽気。
④ 冬美トンクン(♀,2008年生)→ 落ち着きがあり、2番目に体が大きい。
⑤ 秋都トンカム(♂,2011年生)→ 唯一のオス。遊び好きだが頑固な一面も。
美都以外の4個体は2014年にラオスから贈られました。
現在、ラオスから来た4個体の間で繁殖に取り組む「ゾウの繁殖プロジェクト」に取り組んでいます。
ゾウは発情時の外見変化や、行動変化がわかりにくい個体もおり、
行動変化に加え、性ホルモンの分泌のモニタリングも重要とされています。
京都では、定期的な採血で血中の性ホルモンのモニタリングに加え、大学と共同で、糞に排出される性ホルモンを調査しています。(2)
排便をしようとしている夏美ブンニュン。糞は一見すると汚いイメージがありますが、糞中には性ホルモンや性フェロモンなどが排出され、オスゾウが糞の匂いを嗅ぎ、発情度合いを探ることがあるなど、彼らの繁殖行動やコミュニケーションにはなくてはならないものとされています。(3)
そのデータや、トンカムの反応を見ながらペアリングの時期を決められているそうです。
糞中ホルモンの調査は、主に岐阜大学の動物繁殖学研究室と共同でおこなわれています。
飼育員さん曰く、2020年以前よりメスたちの発情は確認できていたとのことでしたが、2020年頃にはトンカムの性成熟が認められたのだそうです。
約2年前より、まずはトンクンの発情に合わせ、トンカムとペアリングがおこなわれるようになったのだそうです。(4)
ペアリング開始時のブログは、こちらをクリックするとご覧になれます。
2 ペアリングの様子
ここからは、ペアリングを観察していた時に見られたさまざまな姿を紹介いたします。
トンカムがトンクンの陰部の近くに鼻を近づけています。
鼻を近づけた後、トンカムは口に鼻先を入れる動作をしていました。これはトンクンの発情を確認する行動で、発情以外でもみられますが、発情メスに対しては頻度が多くなるそうです。(5)
排卵時期にあるメスの尿中には、性フェロモンとして機能する化学物質((Z)-7-dodecen-1-yl acetate) が多量に含まれており、それによって排卵が近いことをオスに知らせるといわれています。
トンクンを追いかけるトンカム。発情したメスは、オスの気を引くように走り回ることがあるそうです。こうしたペアリング時にはよく見られる行動で、今回の場合でも頻繁に見ることが出来ました。
トンカムとトンクンが鼻を絡ませて押し合いをしていました。こうした行動は激しい闘争ではなく、あくまで自らの力の優位性を相手にアピールする行動だそうです。
押し合いの応酬の後、トンカムが力比べを制していました。
繁殖目的のペアリングがはじまったのは2022年の夏。2023年秋にはトンカムが体調不良で療養中だったため、昨年12月末~現在のペアリングが半年以上ぶりだったと園内サインで目にしました。
近い将来嬉しいニュースを見られることを楽しみにしております。
実は京都市動物園のゾウたちは、私の大学の卒業研究でお世話になった個体たちでした。
そんな彼らが皆おとなになり、次世代への繁殖の期待が期待されています。彼らの成長ぶりに驚くと共に、これからもますます目が離せなくなりました。
ここまで彼らが立派に育ち、繁殖行動が見られるようになったのは、日々飼育に当たられている飼育員さんや獣医さん、彼らの繁殖や栄養のことを研究されている方があってのことと思います。
この記事から、ゾウの繁殖や動物園での種の保存を目指した取り組みのことや、京都で暮らす子たちのことなどに興味をもってくださると嬉しいです。
神山
引用文献
(1)Taya et.al (1991) Concentrations of progesterone, testosterone and estradiol-17 β in the serum during the estrous cycle of Asian elephants (Elephas maximus). Zoo Biology 10, 299-307
(2)獣医室だより 047 アジアゾウのホルモン検査 https://www5.city.kyoto.jp/zoo/enjoy/blog/breeder-blog/20200213-38390.html 2024年1月15日訪問
(3)田谷一善(2017)ゾウの知恵 陸上最大の動物の魅力にせまる SPP出版
(4)アジアゾウの冬美トンクンと秋都トンカムの同居を行っていました。https://www5.city.kyoto.jp/zoo/enjoy/blog/breeder-blog/20220904-68112.html 2024年1月15日訪問
(5) Jainudeen et al (1971) Oestrous cycle of Asiatic Elephant, Elephas maximus, in captivity. J Reprod Fert 27, 321-328
(6) 楠田哲士, 乙津和歌, 川上茂久(2013)ゾウの飼育下繁殖の現状と課題, JVM獣医畜産新報 vol.66 No.11 812-817 :文永堂出版
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