ブログを見てくださっているみなさま、2024年が始まって早いもので10日が経ちました。
私のペースになってしまいますが、今年も変わらずよろしくお願いいたします!
さて今回は、東京都の多摩動物公園で暮らす
日本最高齢のアジアゾウのアヌーラ(♂, 推定71歳)を紹介いたします。
昨年推定70歳になり、これまで最長寿だったメスのはな子 (♀, 1947~2016,井の頭自然文化園にて飼育)の推定69歳の記録を抜きましたが、今年は自身のもつ記録を更新しました!!
今回はそれを記念し、多摩の生き証人ともいえる彼のことを紹介いたします。
目次
1.生い立ち
2.仲間に助けられたアヌーラ
3.久しぶりの仲間と、新ゾウ舎への移動
4.現在のアヌーラ
1.生い立ち
1953年、スリランカで生まれたといわれています。
1956年、同国でおこなわれた仏記2500年祭、および建国2500年の式典に三笠宮崇仁親王殿下御夫妻が参列されたことを切っ掛けに、ソロモン・バンダラナイケ首相から上野動物園に贈られました。(1)
名前の「アヌーラ」は、首相のご子息さんの名前に由来するのだそうです。
最初は上野動物園で飼育されていましたが、1958年4月28日に多摩動物公園の開園に合わせて移動し、半世紀以上を過ごしてきました。(1)

多摩に来園して彼が50年以上過ごした旧アジアゾウ舎。とがった赤い屋根が特徴的な獣舎で、西洋の城塞のような雰囲気を感じる獣舎でした。(2022年11月5日撮影)
2. 仲間に助けられたアヌーラ
1979年、推定26歳の時、病気にかかってしまった彼。飼育員さんがバナナの中に薬を入れて食べてもらおうとしても普段と違うことを察して食べなかったそうです。
そんな時、一緒に暮らしていた高子とガチャ子(ともに♀)が自力で立つことが難しい彼に寄り添い、ひたすら支え続けたのだそうです。
それは一回だけでなく、アヌーラの病気が治るまで、ずっと支え続けたのだそうです。
当時はゾウの治療技術が発展途上だったこともあり、一時は危ぶまれたそうですが、病気のアヌーラを見かねた仲間たちにより、無事に回復し、すっかり元気になったとあります。 (2)
この時の逸話は「ともだちをたすけたゾウたち」という本となって今も語り継がれています。
3.久しぶりの仲間と、新ゾウ舎への移動
アヌーラと共に過ごしてきた高子が1990年に、ガチャ子が1993年に亡くなり、しばらくの間アヌーラだけの生活が続きました。(3)
2013年に、日本とスリランカの国交60周年を記念して、スリランカからメスのアマラとオスのヴィドゥラが来園し、彼にとっては久々に同種の仲間がやってきました。(4)
土の山の上で遊ぶアマラ(左)とヴィドゥラ(右)。現在はそれぞれ19歳と16歳。性成熟を既に迎え、繁殖を目指して幾度なく同居がおこなわれています。(2023年6月13日撮影)
まだ彼らがこどもでアヌーラとは体格差があることや、久々の仲間ということもあるのか、同居はおこなわれませんでした。
アヌーラは久々に仲間が来たことにもあまり動じず、マイペースに過ごしてきたのだそうです。
60歳を超えても、健康管理のために必要なトレーニングも順調にこなし、蹄の手入れや冬場は保湿油を塗ってもらうなどのケアが出来ていました。(5)
2017年には、建設中の新アジアゾウ舎の寝室部分が完成し、
一足先に移動することになりました。
理由としては、過ごしやすい環境が用意されていること、少しでも早く健康な内に移動する方が彼にとって好ましいからだったそうです。(6)
新アジアゾウ舎の寝室。地面には砂が約2mも敷き詰められ、ゾウたちの足への負担を軽減できるようになっています。更に上からフィーダー(給餌装置)を吊るしたり、遊び道具となるタイヤや丸太など、充実した環境が整っています。
そこへの移動は、旧舎から距離があるため、大型の輸送箱を使って移動しました。
箱に入る練習を重ね、そこに入っても落ち着いて過ごせるようにトレーニングがおこなわれたそうです。現在は新アジアゾウ舎前にて展示されています。
新ゾウ舎へ引っ越した彼は、すぐに環境になじんだそうです。
砂の地面のおかげで、足への負担が和らいだだけでなく、広い施設を歩き回ることで運動量の増加や、吊るされたフィーダーから餌を取るため、鼻と頭を上げることで首や肩の筋肉が鍛えられるなど正の効果が現れたそうです。(7)
柵に取り付けられたポリタンクはフィーダー。鼻を伸ばして頭を上げて餌を取る行動が引き出されます。
この時から白内障が進行しつつありましたが、持ち前の鋭い嗅覚や感覚でどこに何があるかを把握し、支障はあまりでなかったとのこと。
屋外の運動場の砂山を、鼻で探りを入れるアヌーラ。目があまり見えなくとも、彼らは嗅覚や触覚等が優れているといわれます。それを駆使して問題なく過ごしています。
後に広くてさまざまな環境が用意された屋外運動場も完成しました。餌を至る所に隠して探させる行動を引き出し、群れでの飼育でも十分な広さのだそうです。
そこから数年が経ち、2020年にアマラが、2021年にヴィドゥラが新ゾウ舎への移動を終えました!
2020年に移動したアマラとは部屋が隣で、柵越しに挨拶するなど良好な関係を築いていたそうです。元々良好な関係だったことと、複数個体でいることが彼らにとって良いということを判断し、同居がおこなわれました!(8)
彼にとっては約30年ぶりに他の個体と一緒に過ごすことになったそうですが、
とても落ち着いていて、互いに挨拶するなどの行動が見られたのだそうです。
同居していたメスのアマラ。後に屋外運動場が完成した際にも、アヌーラが環境に慣れるにも大きな役目を果たしたのだと聞きました。
4.現在のアヌーラ
最近(2022~2023年)の彼の姿を、私が撮影した写真を使って紹介いたします!
屋外運動場にて、飼育員さんからもらったブイ型のフィーダーから餌を取り出そうとしています。
年を重ねてきたこともあるのか、飼育員さんの呼びかけに応じるのに時間がかかることもあるそうですが、持ち前の感覚を生かして、過ごすに当たって大きな支障はないとのことです。
餌も栄養を効率よく摂取できるよう、切り方や与え方などを工夫して、日々健康で暮らせるように工夫されていると聞きました。
運動場を歩くアヌーラ。大型の動物は歩くことで足がポンプの役割を果たし、全身に血液を巡らせるといわれます。広い運動場を探索することでも運動量の増加に繋がり、蹄も自然と削れていくので、蹄の伸びすぎも防げるとのことです。
アヌーラ(手前)の向こうの柵の中にいるのはヴィドゥラ。
どちらもオス同士で、若いヴィドゥラの方が一回り大きな体躯をしていますが、関係は悪くはないとのこと。
アマラとヴィドゥラという若い個体の存在も心の支えになっていることを考慮すると、長生きの秘訣かも知れませんね。
擬岩に向かって鼻を伸ばしています。擬岩の中には複数穴が開いており、その中に餌が隠されています。
日によって隠す場所を変えており、アヌーラが飽きてこないように日々飼育員さんが工夫を凝らしています。
砂山で泥浴びをした後なのか、体が赤い土を被った姿のアヌーラ。
運動場には複数の砂山があり、彼がそこで砂浴びをしたり、寝転んだり出来るよう、定期的に重機で砂を補充したり、山を造成するなどをされているようです。
多摩の環境でずっと暮らしてきたアヌーラ。アジアゾウの世界最高齢記録は台湾の台北市立動物園で飼育されていた林旺(リンワン)という個体で、推定85歳といわれています。(9)
平均寿命が60~70年のアジアゾウの中で高齢なのは間違いありません。
歩行もアマラとヴィドゥラに比べるとゆっくりですが、日々彼のペースで健康的に過ごしています。
そんな彼が長く健康で、心身共に快適に過ごしていって欲しいと思っております。
読者のみなさまも、アヌーラに是非会いに行って見てください!
引用文献
(1)東京都(1982)上野動物園百年史 第一法規出版株式会社
(2)わしおとしこ(2002)ともだちをたすけたゾウたち 教育画劇
(3)アジアゾウ「アヌーラ」の夜間放飼 https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=tama&link_num=22464
2024年1月12日訪問
(4)スリランカゾウ2頭、3月14日から公開します https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=tama&link_num=21397 2024年1月12日訪問
(5)アジアゾウのトレーニング近況報告 https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=tama&link_num=23319
2024年1月14日訪問
(6)スリランカゾウの「アヌーラ」が引っ越します https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=tama&link_num=24421 2024年1月14日訪問
(7)新アジアゾウ舎でくらすアヌーラの近況 https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=tama&link_num=24868
2024年1月14日訪問
(8)アジアゾウ「アヌーラ」と「アマラ」の同居 https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=news&inst=tama&link_num=26578 2024年1月14日訪問
(9)田谷一善(2017)ゾウの知恵 SPP出版
コメント
コメントを投稿