世界ゾウの日記念 特集 その3 マルミミゾウ

前回はサバンナゾウの特集をおこないました。

第3回の今回は、マルミミゾウ (Loxodonta cyclotis) の特集をします。

サバンナゾウ (Loxodonta africana) と近縁ですが、異なる点も多々あり、野生での生活もわかっていないことが多いそうです。

今回は、マルミミゾウ研究者の野本繭子さんが提供してくださった、

生息地や、野生での写真もご紹介いたします!


目次:
その1 分類・分布
その2 特徴
その3 生活・一生
その4 マルミミゾウが見られる動物園


その1 分類・分布

マルミミゾウは、長鼻目、ゾウ科、アフリカゾウ属 (Loxodonta属) に分類されています

アフリカゾウ属には本種と、サバンナゾウの2種が属する考えが主流とされています。


学名 (世界共通の呼び名) は、「Loxodonta cyclotis」。前回の記事同様、Loxoはひし形の、dontaは歯。cyclは丸い、otisは耳という意味だそうです。(1)


名前の由来となった丸みを帯びた耳。名は体を表すとはこのことですね!

従来は、「アフリカゾウ」として、サバンナゾウとマルミミゾウの2亜種に分ける考えが主流でしたが、2000年代より、形態や生態に加え、DNAでの明確な違いが認められることから、

2種に独立する考えが主流となっているようです。(2)


左がマルミミゾウ、右がサバンナゾウ。


しかし、生息地域が重複する場所もあり、その場所で両者の交雑個体も目撃されているようです。(ウガンダ共和国のキバレ国立公園やコンゴ民主共和国のガランバ国立公園など) (3)


彼らは、ガボン、コンゴ民主共和国、中央アフリカ、カメルーン、ガーナ、ブルキナファソなど、

アフリカ中部~西部の赤道直下に分布しています。(4)

分布域の詳細については、IUCN (国際自然保護連合) のレッドリストにて、詳しく紹介されています。気になる方はそちらをクリックしてご覧ください!


主な生息地は、熱帯雨林や森林など(5)

マルミミゾウが暮らす、ガボンのムカラバ・ドゥドゥ国立公園の熱帯雨林です。

(写真提供:野本 繭子さん)

更に、餌を求めてサバンナ地帯にも出現することもあるようです。

彼らの生息地のひとつ、ガボンのムカラバ・ドゥドゥ国立公園のサバンナです。

(写真提供:野本 繭子さん)

引用文献

(1) Murray E. Fowler, Susan K. Mikota (2006) Biology, Medicine, and Surgery of Elephants : Blackwell publising

(2) Roca, A. L.; Georgiadis, N.; Pecon-Slattery, J. & O'Brien, S. J. (2001) Genetic Evidence for Two Species of Elephant in Africa Science. 293 (5534): 1473-1477

(3) Don E. Wilson, Russel A. Mittermeier (2011) Handbook of the mammals of the world vol2. Hoofed Mammals : Lynx Edicions 

(4) IUCN Red List https://www.iucnredlist.org/species/181007989/204404464 2022年8月11日訪問

(5) 田谷一善 (2017) ゾウの知恵 陸上最大の動物の魅力にせまる SPP出版


その2 特徴

お次は体の特徴と、サバンナゾウとの違いなどをご紹介いたします。


まずは、上の写真の「体長」と「体高」について。

体長は、頭の先端からお尻までの長さ、体高は、肩の先端から肢の先端までの長さ


体高… 180~280cm (オスは240~280cm) (1) 
体長… 600~750cm

体重は、2200~4400kgほどで、最大でも6000kgほどにしかならないそうです。

ここからは、サバンナゾウとの外見上の違いを紹介します。

1 体の大きさ

左がサバンナゾウで、右がマルミミゾウ。

サバンナゾウと比べると、マルミミゾウは一回り小さな体格をしています。

サバンナゾウが体高260~340cmほどに対し、マルミミゾウは180~280cmほど。
体重もサバンナゾウが2800~7000kgになるのに対し、マルミミゾウは2200~4400kg程にしかならないようです。

2 耳の形
左がサバンナゾウ、右がマルミミゾウ。

サバンナゾウの耳は、左の写真のように角ばった形をしていますが、マルミミゾウはそれと比べると全体的に丸みを帯びた形をしているのが特徴です。

3 牙の向き

左がサバンナゾウ、右がマルミミゾウ。
サバンナゾウの牙は、やや上方に湾曲して伸びることが多いことに対し、マルミミゾウの牙は下方に真っすぐ伸びることが多いそうです。

また蹄の数にも、サバンナゾウが前足に4つずつ、後足に3つずつに対し、マルミミゾウは、前足に5つずつ、後ろ足に4つずつと、違いが見られます。

引用文献
特に断りのない場合、以下の文献を引用しています。
Don E. Wilson, Russel A. Mittermeier (2011) Handbook of the mammals of the world vol2. Hoofed Mammals : Lynx Edicions 
田谷一善 (2017) ゾウの知恵 陸上最大の動物の魅力にせまる SPP出版

(1) Morgan, B. J.; Lee, P. C. (2003) Forest elephant (Loxodonta africana cyclotis) stature in the Reserve de Faune du Petit Loango, Gabon : Journal of Zoology. 259 (4): 337–344.


その3 生活・一生
マルミミゾウは、他のゾウたちと同様、
メスとこどもを中心とした群れをつくって生活しています。(母系社会)


サバンナ地帯に現れた、マルミミゾウの親子。(写真提供:野本 繭子さん)

群れの大きさは3~8個体程 (最大でも20個体程) 。サバンナゾウと比べると、小規模です。(1)

妊娠期間は22ヶ月、生まれたばかりの赤ちゃんは105kg程だそうです。(2)

野生のマルミミゾウの親子。(写真提供:野本 繭子さん)

こどもは群れの中で育ち、4~5歳ほどで離乳するとされています。

メスは、8~12歳ほどで性成熟するとされていますが、実際出産がおこなわれるのは23歳頃という報告があります (サバンナゾウは大体12~15歳ごろ) 。(3)

おとなのオスは単独かオス同士の群れで生活するようです。


こちらは密林に現れたおとなのオス。(写真提供:野本 繭子さん)


寿命は、60~70年程と推測されています。

彼らは、野生では、枝葉、樹皮、果実、草などを主に食べているそうです。(4)


彼らが暮らす森林では、樹皮の一部がはがれた木々が見られます。これは、彼らが牙を使って樹皮をそぎ落として食べた跡だそうです。(写真提供:野本 繭子さん)

中でも、サバンナゾウと比べると果実を多く食べるとされています。


採食中の野生のマルミミゾウ (写真提供:野本 繭子さん)

彼らは、植物の種を各地に広げる「種子散布者」として重要な役目を果たしていると考えられています。(5)

主に考えられているのは以下の3つです。

1 果実を食べるとき、一緒に種を飲み込み、糞と一緒に出すことで種を遠くに運ぶ
2 他の動物が食べられない大きな果実を食べ、その種にとっては唯一の種子散布者である
3 彼らが森を移動したルート  (ゾウ道) が、植物が育つのに良い環境をつくる


古い糞に含まれていた種が発芽し、植物が芽吹いています。(写真提供:野本 繭子さん)
こうして彼らが移動をして糞をすることで、植物の子孫を広げることにつながっているそうです。


アフリカの熱帯雨林には、ニシゴリラ (Gorilla gorilla)  やチンパンジー (Pan troglodytes) などの霊長類もいます。彼らも種子散布に貢献しているとされていますが、
大型で、皮が固くて分厚い果実は、マルミミゾウしか食べることができないそうです。

その果実をつける植物にとっては、ゾウがいないと子孫を残せなくなってしまうそうです(6)


こちらは、マルミミゾウが森を移動した時にできた道。ゾウ道と呼ばれているそうです。
(写真提供:野本 繭子さん)

彼らが移動した結果、植物が発芽するのに適した日射量をもたらす空き地をつくり出すといわれています。(7)

これらのことから、マルミミゾウは熱帯雨林の維持には欠かせない存在と考えられているそうです。

しかし、彼らは象牙を目的とした密猟や、木材や鉱石採掘のための生息地の森林開発などで個体数を大きく減らし、絶滅が最も心配される、絶滅危惧IA類 (CR) に指定されています。(8)

引用文献
(1) White, L. J. T.; Tutin, C. E. G. & Fernandez, M. (1993) Group composition and diet of forest elephants, Loxodonta africana cyclotis Matschie 1900, in the Lopé Reserve, Gabon  African Journal of Ecology 31 (3): 181–199
(2) Don E. Wilson, Russel A. Mittermeier (2011) Handbook of the mammals of the world vol2. Hoofed Mammals : Lynx Edicions 
(3) Turkalo, A.; Wrege, P.H. & Wittemyer, G. (2017). Slow intrinsic growth rate in forest elephants indicates recovery from poaching will require decadesJournal of Applied Ecology. 54 (1): 153–159.
(4) White, L. J. T.; Tutin, C. E. G. & Fernandez, M. (1993). Group composition and diet of forest elephants, Loxodonta africana cyclotis Matschie 1900, in the Lopé Reserve, Gabon. African Journal of Ecology31 (3): 181–199
(5) Yumoto, T.; Maruhashi, T.; Yamagiwa, J. & Mwanza, N. (1995). Seed-Dispersal by Elephants in a Tropical Rain Forest in Kahuzi-Biega National Park, Zaire. Biotropica27 (4): 526–530
(6) Poulsen, J.R.; Rosin, C.; Meier, A.; Mills, E.; Nuñez, C.L.; Koerner, S.E.; Blanchard, E.; Callejas, J.; Moore, S. & Sowers, M. (2018). Ecological consequences of forest elephant declines for Afrotropical forestsConservation Biology32 (3): 559–567
(7)  終わることなきアフリカ熱帯林におけるマルミミゾウの密猟と象牙取引 https://www.jwcs.org/data/nisihara030107.pdf
(8) IUCN Red List https://www.iucnredlist.org/species/181007989/204404464 2022年8月11日訪問


その4 マルミミゾウが見られる動物園
最後に、マルミミゾウが見られる動物園について紹介します。

現在、世界中で彼らを見られる動物園はわずか2園、そして3個体しかいないといわれています。

そのうちの2個体が日本の動物園で飼育されています!

1 広島市安佐動物公園→ ダイ (♂) 、メイ (♀)
2 アビジャン動物園 (コートジボワール)→ Can (♀) (1) 

日本では、過去に2001年まで沖縄こどもの国 (2) 、2022年までは秋吉台自然動物公園で飼育されていましたが、現在は安佐動物公園のみです。

今回は、日本にいる、ダイとメイについて紹介します。


こちらがオスのダイ。1999年に西アフリカのブルキナファソで生まれた個体で、2001年にメスのミミと共に、現地の保護施設から、山口県の秋吉台自然動物公園に来園しました。

当初はサバンナゾウと思われていましたが、外見の違いと遺伝子鑑定でマルミミゾウであると判明したようです。

しかし、ミミが2013年に亡くなり、後述するメイのとの間で繁殖を目指すため、2022年6月に広島市安佐動物公園に移動しました。数年契約で借り受けているそうです。(3)

立派な牙が特徴のオスで、牙は右しかありません。
彼の秋吉台時代のようすについては、過去記事をご覧ください。


こちらはメスのメイ。1999年に西アフリカのブルキナファソで生まれた個体で、2001年に現地の保護施設から来園しました。

ダイと同じく最初はサバンナゾウと思われていましたが、外見の違いや遺伝子鑑定でマルミミゾウだと判明したようです。

牙は小ぶりで短め。好奇心旺盛で飼育員さんが大好きだそうです。


こちらは、サバンナゾウのタカ (♂、左) にじゃれつくメイ。種類こそ違いますが、とても仲が良く、柵越しに挨拶したり、じゃれ合ったりする姿が見られます。

サバンナゾウとの比較ができるのも、現在日本で唯一!
世界でもほとんどないと思われます

どうやらダイとメイはお互い興味を示しているようで、メイの発情に合わせて同居する予定だそうです。今後の2個体の動向がとても気になりますね。

引用文献
(1) Elphant photo lexicon https://elefanten-fotolexikon.eu/profile/africa/ivory-coast/abidjan-abidjan-zoo/can/ 2022年8月12日訪問
(2) 沖縄こどもの国飼育課編 (1999) 動物園へ行こう 琉球出版社
(3) 雄のマルミミゾウ「ダイ」の公開 (7/16) http://www.asazoo.jp/event/news/animal/4960.php 2022年8月12日訪問


だいぶ日をまたいでしまいましたが、今回はマルミミゾウについて紹介しました。
これを機に、マルミミゾウのことを一つでも知っていただけると嬉しいです。

最後に、今回の記事作成にあたり、野本繭子さんには、生息地や野生での様子などの貴重な写真を提供してくださいました。本当にありがとうございます!

コメント

  1. 毎日楽しみに拝見しています。今回マルミミさんを紹介下さりとても嬉しかったです。西原智昭さんの「知られざる森のゾウ」やナショジオ(5月号に少しですが特集が)でたまに出るくらいで寂しく思っていました。先月、安佐のメイちゃんとダイくんにも会って来ました。コンゴの森でひっそり暮らす彼らを守ってあげたい気持ちが大きくなるばかりです。

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    1. 我々のブログを毎日見てくださり、本当にありがとうございます。とても嬉しいです。安佐のメイとダイにも会われたのですね!森で暮らす彼らは、森の維持には欠かせない存在なので、私も何か貢献できればと考えております。これからも我々の活動を応援してくださると嬉しいです。 かみやんより

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