前回はアジアゾウの特集をおこないました。皆さまに見ていただき、とても嬉しいです。
第2回の今回は、サバンナゾウ (アフリカゾウ) (Loxodonta africana) の特集をします。
陸上最大の動物でもある彼ら。そんな彼らの特徴などをご紹介いたします!
写真は、左から、とべ動物園の媛 (♀) 、砥愛 (♀) 、リカ (♀) 。
目次:
その1 分類・分布
その2 特徴
その3 生活・一生
その4 サバンナゾウが見られる日本の動物園
その1 分類・分布
サバンナゾウは、長鼻目、ゾウ科、アフリカゾウ属 (Loxodonta属) に分類されています。
アフリカゾウ属には本種と、マルミミゾウ (Loxodonta cyclotis) の2種が属する考えが
主流とされています。
学名 (世界共通の呼び名) は、「Loxodonta africana」。Loxoはひし形の、dontaは歯、africanaはアフリカのという意味で、「アフリカのひし形の歯をもつ動物」という意味になるそうです。(1)
こちらが、学名の由来となった歯の写真です。
青丸で囲んだ部分が、上顎の臼歯 (奥歯) 。
歯の部分の溝がひし形をしていることがよくわかります。
この特徴は同属のマルミミゾウも共通しているそうです。
従来は、「アフリカゾウ」として、その中の亜種として、サバンナゾウとマルミミゾウの2亜種に分ける考えが主流でしたが、
2000年代より、形態や生態に加え、DNAでの明確な違いが認められることから、
2種に独立する考えが主流となっているようです。(2)
左がマルミミゾウ、右がサバンナゾウ。
この両種の違いは、次回の記事にて詳しく紹介予定です!
サバンナゾウには亜種等を認めない考えが主流ではありますが、地域によって体の大きさや牙の形などは多様性が見られるのだそうです。(3)
彼らは、ケニア、南アフリカ、ボツワナ、ウガンダ、ナイジェリア、ニジェールなど
サハラ砂漠より南のアフリカに広く分布しています。
しかし、大昔はサハラ砂漠を除いたアフリカ全土に分布し、現在の分布域はその時の15%ほどしかないという報告もあります。(4)
分布域の詳細については、IUCN (国際自然保護連合) のレッドリストにて、詳しく紹介されています。気になる方はそちらをクリックしてご覧ください!
主な生息地は、サバンナや疎林など。(5)
地域によっては、3000mを超える高山や、高温で乾燥した半砂漠地帯、熱帯雨林などにも生息し、幅広い環境適応力を有しているそうです。
引用文献 (1) 田谷一善 (2017) ゾウの知恵 陸上最大の動物の魅力にせまる SPP出版
(2) Roca, A. L.; Georgiadis, N.; Pecon-Slattery, J. & O'Brien, S. J. (2001). "Genetic Evidence for Two Species of Elephant in Africa" Science. 293 (5534): 1473-1477
(3) Don E. Wilson, Russel A. Mittermeier (2011) Handbook of the mammals of the world vol2. Hoofed Mammals : Lynx Edicions
(4) Chase, M.J. et al. (2016) Continent-wide survey reveals massive decline in African savannah elephants. PeerJ 4: e2354.
(5) Don E. Wilson, Russel A. Mittermeier (2011) Handbook of the mammals of the world vol2. Hoofed Mammals : Lynx Edicions その2 特徴
お次はサバンナゾウの体の特徴と、アジアゾウとの違いなどをご紹介いたします。
まずは、上の写真の「体長」と「体高」について。体長は、頭の先端からお尻までの長さ、体高は、肩の先端から肢の先端までの長さ。
体高… 260~340cm (♂で最大400cmという記録あり)
体長… 600~750cm
アジアゾウ同様、体長と体高は、個体よって異なりますが、オスの方がメスよりも大きいことが多いそうです。
手前がメス、奥がオス。オスの方が一回り大きな体をしていることが多いです。 (写真は、広島市安佐動物公園にて撮影。手前がアイ (♀, 2021年に死亡) 、奥がタカ (♂) 。)
体重は、オスで5000~6500kg、メスで2800~3500kgほどで、大きなオスでは7000kgを優に超え、最大で10000kgという記録があります。
サバンナゾウで特徴的な部位としては、牙が挙げられます。
牙は、オスとメスともに生え、特にメスは、アジアゾウと比べると明確な牙が生えています。
上の写真はどちらもオス。オスの牙は長いものでは2mを優に超え、最大で3.5m程の牙をもつ個体が見つかったという記録があります。(2)
アジアゾウとは、同じ「ゾウ」の名は付きますが、さまざまな違いが見られます。
その中でも代表的なものを3つほどご紹介いたします。
その1 頭部
左がアジアゾウ、右がサバンナゾウ。頭の上の赤線にご注目。
頭の形が異なります!アジアゾウは山が2つ、サバンナゾウは山が1つあるようにみえます!
また、顔に対する耳の大きさも、サバンナゾウの方がより大きいことが特徴です。
その2 背中
左がアジアゾウ、右がサバンナゾウ。背中の部分の赤線にご注目。
アジアゾウは背中に丸みがありますが、
サバンナゾウは背中にくぼみがあります!
また、アジアゾウでは体の一番高い部位が、背中の頂点、
サバンナゾウでは肩の上といった違いもあります。
前回のアジアゾウの記事の巻末のクイズの正解は、2.背中の形が異なる でした!
その3 鼻先
左がアジアゾウ、右がサバンナゾウ。
彼らは鼻先も違いが見られます!
アジアゾウは、鼻先の突起が上だけに1つ、サバンナゾウは鼻先の突起が上下にそれぞれ1つと、鼻先でも見分けることができます!
良い写真が無かったのですが、彼らは蹄の数も異なります。
アジアゾウは前足の蹄が5つ、後ろ足の蹄が4つあるのに対し、サバンナゾウは前足の蹄が4つ、後ろ足の蹄が3つという特徴があります。(例外もあるようです。)
引用文献
特に注のない場合、以下の文献を使用しています。
Don E. Wilson, Russel A. Mittermeier (2011) Handbook of the mammals of the world vol2. Hoofed Mammals : Lynx Edicions
田谷一善 (2017) ゾウの知恵 陸上最大の動物の魅力にせまる SPP出版
(1) どうぶつのくに 杜の都の動物公園よもやま話 Vol.3 アフリカゾウの繁殖に向けて http://www.doubutsu-no-kuni.net/?p=40411
2022年8月10日訪問
(2) 田谷一善 (2017) ゾウの知恵 陸上最大の動物の魅力にせまる SPP出版
その3 生活
サバンナゾウは、アジアゾウ同様、最年長のメスをリーダーとした、
メスとこどもを中心とした群れをつくって生活しています。(母系社会)
基本的には、数個体~20個体程度のことが多いですが、複数の群れが集合し、
なんと1000個体近くの大群になることもあるようです。
妊娠期間は約20~22か月と動物の中で最長で、生まれたばかりの赤ちゃんは120kgほど。
生後3~4年ほどで離乳し、オスもメスも群れの中で育ちます。
また、母親以外の他のメスたちが、こどもの面倒を見ることも良く知られています。
これにより、出産経験のない若い個体も、子育てを学ぶとされているようです。
そして、野生では10~15歳頃に性成熟を迎えるようになるそうです。
(飼育下では性成熟が早くなる傾向があります。)
メスは基本的に群れに残りますが、
オスは、オス同士の小さな群れか、単独で生活するといわれています。
メス (右) に求愛するオス (左) 。(個体はオスがタカ、メスがアイ(2021年死亡)。)
発情したメスは、数km先まで届く低周波音を用いて独特な声を発し、
さらに尿中にはフェロモンとして機能する化学物質が多量に含まれるようになるようです。(1)
オスたちは、こうしたメスたちの声と匂いを頼りに、探し当てるといわれています。
年齢が上がるにつれ、交尾の成功率が上がり、歳を重ねた40~55歳頃にピークを迎えるようになるといわれています。(2)
サバンナゾウは、乾季で水が少なくなると、匂いを頼りに
地下水の水脈を探し、井戸を掘ります!足と鼻、そして牙を使って器用に掘り、そこから湧き出た水を飲むことでも知られています。
寿命は野生では60~70年程とされています。
国内の動物園では、東京の多摩動物公園で飼育されていたアコ (2022年死亡、下の写真) の推定57歳が最年長記録とされています。
引用文献
特に断りのない場合、以下の文献を引用しています。
Don E. Wilson, Russel A. Mittermeier (2011) Handbook of the mammals of the world vol2. Hoofed Mammals : Lynx Edicions
(1) 田谷一善 (2017) ゾウの知恵 陸上最大の動物の魅力にせまる SPP出版
(2) Elephant VoicesのHP https://www.elephantvoices.org/
その4 サバンナゾウが見られる日本の動物園
2022年8月12日現在、14の施設で23個体が飼育されています。
個体数はアジアゾウと比べると、半分以下で、特にオスは3個体しかいません。
ここでは、私の訪れたことのある場所で、一押しの園2つをご紹介いたします。
愛媛県立とべ動物園
ここでは、日本で唯一、サバンナゾウの家族が見られます!
左から、媛 (ひめ) 、砥愛 (とあ) 、リカ。いずれもメス。
リカは、これまでに5回出産経験があり、そのうち3個体のこどもが無事に生まれ育っています。
媛はこの一家の長女。最初はリカが上手く子育てができず、飼育員さんの手で育てられましたが、後に、母のリカの元に戻ることができました。
のちに弟の砥夢 (とむ、現在は多摩動物公園にて飼育) と妹の砥愛が生まれました!
複数で飼育されているためか、さまざまなやりとりを見られるのも魅力!
広島市安佐動物公園
ここでは、サバンナゾウのタカ (オス) が飼育されています。
左にいるのは、撮影当時飼育されていたアイ (♀, 2021年死亡) 。
彼は1991年に兵庫県にある姫路セントラルパークで生まれ、今年で31歳になりました。
国内で繁殖したサバンナゾウは5個体いますが、その中では最年長の個体です。
牙は短めでも、体がとても大きく迫力満点です。
右にいるのは、マルミミゾウのメイ (♀) 。
ここは、国内唯一、マルミミゾウとサバンナゾウを同時に見られる動物園です!
(おそらく世界唯一の可能性あり)
種は違いますが、この2個体は、とても仲が良く、柵越しにじゃれ合ったり、メイの方から押し合いをはじめたりと、さまざまなようすを見せてくれます。
先程述べた通り、国内のサバンナゾウは個体数がとても少なく、オスは3個体のみの状況。
このままだと、日本で見られなくなる可能性が高いといわれています。
繁殖のための個体の移動などがおこなわれているほか、
岩手県の盛岡市動物公園では、人工授精での繁殖を目指しています。
こちらは、メスのマオ (♀) 。
今年で20歳と繁殖適齢ではありますが、妊娠経験がないと、25歳くらいで卵巣活動が停止してしまう個体もいるようです。
年齢の理由と、オスの移動が難しいため、現在、国内初の人工授精での繁殖を目指しているようです!
人工授精プロジェクトやその経緯については、
公式のnoteにて詳しく紹介されております。
興味がある方はぜひご覧ください。
今回は、世界ゾウの日記念で、サバンナゾウについてご紹介いたしました。
日をまたいでしまいますが、次は、マルミミゾウについて紹介いたします!
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